生活

  口を開くのを億劫に感じはじめている。表情筋が使われていないのがよくわかるとかつて一緒に暮らしていた人が言った。毎朝同じ時間に登校して、居室に行く。ここは誰も使わない。専門書が壁一面に並べられる横に貼り付けられた乾燥して黄ばんだ紙に30 May 2018 Richard、借りたり返したり。本屋を探しても無かった本を手に取り18 June 2019。曖昧に本を読んでいると授業開始時刻が近付いてくるから、よたよたと歩いて向かう。もちろん誰も居ないから長机を使うことを躊躇ったり躊躇わなかったりしながら座ってスライドを見るふりをしてラップトップの画面に映る無表情に挨拶をする。おはよう。今日もつまらなくて何も変わらない。

  そうして数時間暇を潰したら昼休みになるから即席麺を持って一人になれる場所を探して徘徊する。時間いっぱいだらだらと食べて伸びきった麺に悪態をついて今日も誰にも話しかけられなかったことに安心する。

  また午前中と同じことを繰り返す。日銭を稼ぎに行く。講釈を垂れる。家に帰る。寝る。起きる…。